家具の家 no.1とは?
プリツカー賞建築家・坂茂の初期代表作
家具の家 no.1について
家具の家 No.1は、坂茂が38歳の時に設計した初期の代表作品です(1995年竣工)。通常、家具は建物の中に置かれるものですが、この建築では本棚やクローゼットなどの家具ユニットそのものが、壁や柱の代わりに屋根を支える構造体として機能します。
山中湖の讃美ヶ丘別荘地には坂茂が手掛けた建築作品が3つありましたが、現存するのはこの建物のみです。30代で手掛けた貴重な初期作品であり、後の世界的評価につながる実験精神が凝縮されています。
家具の家のコンセプトは国際的にも高く評価され、これまでにカンパーニャ嬬恋キャンプ場(群馬県)とSimose Art Garden Villa(広島県)で原寸復元され、宿泊施設として運営されています。
建築家 坂茂

坂茂(ばん しげる、1957年東京生まれ)は、紙管や木材といった身近な素材を革新的に活用する建築で世界的に知られる建築家です。2014年にプリツカー賞、2024年に高松宮殿下記念世界文化賞を受賞。2025年には文化功労者に選出、AIA(米国建築家協会)ゴールドメダルの受賞も決定し、日本人として丹下健三、槇文彦、安藤忠雄に続く4人目の栄誉となりました。
1995年にNPO法人ボランタリー・アーキテクツ・ネットワーク(VAN)を設立。阪神淡路大震災以降、世界6大陸で65を超える災害支援プロジェクトを展開し、避難所の間仕切りや仮設住宅を提供し続けています。美しさと社会的意義を両立する、世界で最も行動する建築家です。
主な受賞歴
- AIA ゴールドメダル(2026年授賞)
- アメリカ建築賞(2025年)
- グッドデザイン大賞(2025年)能登半島地震のDLT木造仮設住宅で受賞
- 文化功労者(2025年)
- 高松宮殿下記念世界文化賞(2024年)
- アストゥリアス皇太子賞 平和部門(2022年)
- マザー・テレサ社会正義賞(2017年)日本人初 — 災害支援における人道的活動を評価
- 紫綬褒章(2017年)
- JIA日本建築大賞(2015年)
- プリツカー建築賞(2014年)建築界のノーベル賞と称される世界最高峰の国際賞
- フランス芸術文化勲章オフィシエ(2014年)
- オーギュスト・ペレ賞(2011年)
- 日本建築学会賞 作品賞(2009年)
近年の代表作品
- ブルーオーシャンドーム(大阪万博、2025年)— 世界初CFRP構造ドーム
- 男木島パビリオン(瀬戸内国際芸術祭、2025年)
- ウクライナ・リヴィウ市立病院 新棟(建設中)— CLT木造6階建て
- 豊田市博物館(愛知、2024年)— 木構造
- 下瀬美術館(広島、2023年)— ベルサイユ賞「世界で最も美しい美術館」2024年受賞
- 禅坊 靖寧(兵庫・淡路島、2022年)— 全長100mの空中座禅リトリート
- スウォッチ本社(スイス、2019年)
- ショウナイホテル スイデンテラス(山形・鶴岡、2018年)— 水田に浮かぶホテル
- ラ・セーヌ・ミュジカル(フランス、2017年)
- ポンピドゥー・センター・メス(フランス、2010年)
動画
坂茂本人が家具の家の構想を語ったプレゼンテーションと、広島・下瀬美術館に移築された家具の家の映像記録です。
坂茂 2013年プレゼンテーション
2024年 下瀬美術館に再現された家具の家no.1
1995年 竣工
1995年、山中湖の讃美ヶ丘別荘地に竣工。家具ユニットが構造体として屋根を支えるという、前例のない建築が実現しました。2×4工法の合理性と、家具=構造という革新的なアイデアが融合した、坂茂の実験精神の結晶です。
竣工当時の記録













2024年 大規模修復
「原設計通りの復元」— 坂茂の設計思想を忠実に継承しながら、建物を次の時代へ。
目視調査で床の傾斜が確認されたことから修復計画が始まりました。床下調査の結果、山側の束がすべて腐朽し、大引にも損傷が見られました。傾斜地に建つ布基礎の下を雨水が通り抜け、高湿度によって木材が腐朽したことが原因です。真冬の山中湖で、積雪と闘いながらの工事となりました。
修復前
修復後修復の流れ

異変の発見
室内を歩くと、山側に向かって床が明らかに傾いていました。水平器で計測すると明確な沈下を確認。築29年の建物に何が起きているのか——破壊調査が始まりました。

床下の惨状
床下に潜ると、そこは想像を超える光景でした。山側の束はすべて腐朽し指で崩れ、シロアリの痕跡や黒アリの営巣も。傾斜地の布基礎下を雨水が30年近く通り抜け続けたことが、すべての原因でした。

解体——外壁
外壁パネルを一枚ずつ慎重に撤去すると、壁体内には結露による黒カビと白カビが広がっていました。土台周辺の腐朽は想定以上。高濃度アルコールでカビを除去しながら作業を進めました。

解体——床
家具が構造体を兼ねるこの建物では、床の撤去にも細心の注意が必要でした。各家具に転倒防止のつっかえ棒を仕込み、根太を部分的に残しながら順次解体。床下から見上げる本棚が、この建築の特殊さを物語ります。

真冬の再建
真冬の山中湖、積雪30cmを越える中での作業。腐朽した土台を桧材で新調し、錆びたアンカーはすべてステンレス製に交換。全木部にオレンジ色の防蟻・防腐塗料を入念に塗布し、再発を防ぎました。

湿気との決別
腐朽の根本原因を断つため、床下全面に防湿フィルムとワイヤーメッシュを敷設。氷点下3℃の中、耐寒促進剤を添加したコンクリートをポンプ車で打設しました。夜間は石油ストーブで養生し凍結を防ぎました。

外壁の復元
高性能グラスウール断熱材と構造用MDFで壁体を再構成し、透湿防水シートで建物全体を包みました。仕上げは原設計通り、桧の相じゃくり羽目板をステンレス釘で一枚ずつ手打ち。坂茂の設計意図を忠実に再現しました。

再生
桧の大引と根太を鋼製束で水平に据え、床下断熱を施した上にPタイルを一枚ずつ張り戻す。竣工から30年、瀕死だったこの空間は職人たちの手で甦りました。いま皆さまがくつろぐこの部屋が、その結実です。